2013年8月21日水曜日

伊東静雄氏「曠野の歌」

曠野の歌


わが死せむ美しき日のために
連嶺の夢想よ! が白雪を
消さずあれ
息ぐるしい稀薄のこれの曠野に
ひと知れぬ泉をすぎ
非時ときじくの木の実るる
隠れたる場しよを過ぎ
われの播種く花のしるし
近づく日わが屍骸なきがらを曳かむ馬を
この道標しめはいざなひ還さむ
あゝかくてわが永久とはの帰郷を
高貴なるが白き光見送り
木の実照り 泉はわらひ……
わが痛き夢よこの時ぞ遂に
休らはむもの!
(青空文庫より)

今、『富士山の文学』(久保田 淳著)を角川文庫で読んでいます。

わたしは、伊東静雄氏が『万葉集』の「時じくそ 雪は降りける」からの美しい連携として、曠野の歌を組んだとしても面白いと考えていたのを思い出しました。