2012年2月16日木曜日

イエイツへの言及(2)

「1925年

ここでただ一つの目的というのは、イエイツ自身が最も関心を持っていたアイルランドの独立であって、それを廻って起った内乱を扱った詩なのであるから、イエイツの心も石であってよかった筈である。彼の心が石にならず、石に堰かれても流れるものを感じることが出来たのは、彼が詩だけの世界に満足しないで、彼が彼自身であることを許す詩の境地に達することになったのと同じ理由から、一つの政治上の問題に対する執着で人間が人間であるのを止めること、或はその一つの方向にしか進めない人間になることを拒否した為であると考えられる。ここでも、拒否されたのは人間の分裂、及び分裂した人間のそのどれか一部に自分を限定することであって、このように詩人であることがはっきり人間であることである例は、近代では他にないと見てよさそうである。又、その為に詩的ではない、ただの言葉が詩になるので、それは努めて普通の言葉を使うこととも違っている。

言葉で詩を書く技術を完全に身に付けたことから、詩はその限りでは彼の外にあり、……、近代を前にして腰を据えて生きている人間が出現したということになる。

……従って彼がまだこれを書かない時と、書いた後で同じ人間だったとは言えなくて、その意味で彼はその結果であり、彼の方が先に来るのではなかった。併し同時に又、彼はこの詩を自分の前に置いてはっきり眺めることが出来た。」